第1章~シーフギルド2~「――へえ、お前もユキって云うのか。偶然だな」意外にも盗賊の少年――もうひとりのユキは、あっけらかんとしていた。 もしかして名前の掟を知らないのだろうか? そう思い、尋ねてみた。 やはり彼は、名前の掟について何も知らなかった。僕は、昔カヤ様から聞いた話をそっくりそのまま説明した。完全に受け売りだ。 「不思議な話だな」 そう云うと彼は、腕組みをして考えるような格好をした。 「云われて見れば確かに、名前一緒のヤツって見掛けたことなかったな」 彼の感心した表情に、僕は得意気になった。 「旅立つ前にいいこと教えてもらったよ」 彼は笑みを浮かべた。 その言葉に、先ほどの会話が蘇る。 「――ユキ君。本当にアサシンに?」 彼は大真面目な顔をして頷いた。笑みは消えていた。 「最後にいいこと教えてやる――早めにここから逃げろ」 「え?」 僕は何を云われているのか分からなかった。 「もうじき盗賊たちが帰ってくる。お前らみたいな坊ちゃんは、どうせ身代目当てでとっ捕まるぜ。ほら行くぞ」 彼は小さな鞄と先ほどまで研いていた短剣を身につけ、ゴーグルをした。 「つけろ」 突然、顔面に投げられた。慌てて受け取ると、薄い布だった。 「砂塵に紛れて砂漠を抜ける」 それだけ云うとロウにも布を被せ、そのまま背負った。ロウは一見細身だが、あまり軽くはない。それは、肩を貸した自分もよく知っている。 「置いてくぞ」 僕は慌てて鼻と口を覆うように布を巻くと、二人分の鞄を持って後を追った。 狭い抜け道を通り、ピラミッドの外へと抜ける。 馬車の中から見たときと同じく、砂塵が舞っていた。視界がない。だけどこの調子なら、足跡も残らないだろう。 僕は必死で彼の後を追った。 ジャンル別一覧
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